「願いは確かに叶えた。それでさっきの竜の彫像だが・・・」
「これですか?」
「それは知り合いの竜の魂が封じられたもののようだ。なにかのはずみで地上に流れたものらしい。あるべきところのあるべき場所へと戻したいから私に渡してはもらえぬか?」
「はい。ありがとう。あなたのおかげよ」
軽く竜の置物に口づけをしてしんりゅうのカギ爪のテに手渡す。
「さてと、私は強い者を待っている。またいつでも来るがいい。もしまた更なるちからを証明したなら、私のとっておきのエッチな本も授けようぞ」
「エッチな本!!」
鼻息の荒いプロキス。
「「いりません!!」」
ティーエとシフォンに軽蔑の目を向けられる竜の神様。
「じゃあ」
「本当にありがとうございました」
「僕らこそ、君たちのおかげだよ」
ホイミンもくるくると回って嬉しそうだ。
「今度の里の武闘大会では、正真正銘私のちからでヤオさんに勝ってみせます」
「頑張ってね」
「オ、オレも、あの強大な竜神にこの手でトドメをさして、自信が持てました。今度こそキラさんに勝ちます」
「君ならきっと勝てるよ。もし何かに気付けたなら」
「はい」
最後の言葉を交わすパーティ。
「それじゃあ」
「また里にも寄ってくださいね。みんな待ってますから」
手を振って答えるアルス。
「それじゃあ〜」
「サヨウナラ〜」
歩いて立ち去る3人。
「あれ? ちょっとちょっと歩いていく気? こんな岩山に囲まれてるのに……」
「ちょっと名残を惜しんでました」
「プロキスがルーラ使えますから」
「あ、そうよね」
「それではまた」
「ルーラ」
プロキスの呪文で、ふたりと一匹の体が宙に浮かび上がる。
残されたいつものふたり。
「これからどうしようか?」
「ティーエは? どこに行きたい?」
「私は……」
しばらく空を見て考える。
「バハラタの」
「仙人の里?」
コックリとうなづくティーエ。
「生まれ故郷だもんね」
「でも、アルスは? カーメンは、あっ!?」
ティーエの手を握り締めるアルス。
「ルーラ」
ふたりの体が宙に浮かび上がる。
「懐かしいわ」
「ほんと」
何年ぶりかの懐かしい景色と風景に酔いしれるふたり。
「ここで暮らそうか?」
自らの装備を外すアルス。
「でも、カーメンは? アルスは王子でしょ」
「いいんだ。しばらくは……静かに穏やかに暮らそうよ。ふたりで」
「でも」
「もう倒すべき魔王なんていないよ。僕らの使命は終わったんだ。僕らの仕事はもう彼らみたいな次の世代を育てそして委ねることだよ、きっと」
アルスは優しくティーエの手をとった。
その顔を見上げるティーエ。
とても晴れ晴れした穏やかな表情だった。
ティーエはアルスの腕をつかんで寄り添うと、あたたかい光に包まれた、懐かしい森の中を、アルスと共に昔の話を笑ってしながら歩いていった。
無造作に置かれたロトの武具。
そして切り株に突き立てられた王者の剣は、その光を、ただ静かに称えていた……