雷流が辺りをなぎ払う。

「これが、勇者の最強呪文?」

 辺りにほとばしるエネルギーは、濁流となっていつまでも消えない。

「こんなのに耐えられるやつが……」

 直撃をくらった、暗雲の中の獲物を見つめる。

 

しんりゅうは、雷の中心でうごめいているようだ。

「今のうちに、補助魔法を」

「あ、はいっ」

 起き上がってきたシフォンと、ホイミンと手をとる。

2人の手と黄色い触手を合わせて、呪文を詠唱する。

「スピオキルト」

「その呪文は……」

ポロンが、異魔神との戦いで使っていた呪文。

「バイキルトと、スクルトと、ピオリムを合体させてさらに倍……」

「説明は後っ。来るわ」

ぎゃおおん

しんりゅうは牙をむきだしに、アルスにつかみかかってきた。

「クッ」

 噛み砕かれるアルスの体。

「このお」

 斬りかかるプロキスの剣とシフォンの拳は、ダメージを与えるものの、しんりゅうはひるまない。

 荒れ狂うしんりゅうの口の中でもがくアルス。

「アルス様っ」

「……大丈夫」

アルスの落ち着いた声が聞こえると、王者の剣が、輝いて一振りされ、しんりゅうの口元を切り裂いた。

鮮血がほとばしる。

「この鎧と呪文のおかげで、ダメージはたいしたことない」

「よかった」

「いまのうちに、とどめを」

「はい」

 しんりゅうは傷にかまわず、正面から波動を放つ。

「ああっ」

「呪文が……」

「何度でも、かけ直して!」

「はいっ」

 しんりゅうはもう一度のしかかってきた。

 受け止めるプロキス。

「プロキスッ」

「……いいから、はやくっ」

「うん」

 シフォンはフバーハを、ホイミンがスクルトを唱える。

 

 アルスはもう一度雷雲を呼ぶ。

 しんりゅうはプロキスの鼻先で、強烈に瞳を光らせた。

 眠りに落ちるプロキス。

「なにやってんの」

「あたしがっ」

しんりゅうはギガデインの真っ只中から、爆裂呪文と炎を放ってきた。

お互いのエネルギーがぶつかり合い、大気は激しく揺れている。

 戦況を見守りながら、アルス様と、竜の神様は、なにかを確かめ合っているように、シフォンは思えた。

ティーエは縫い針の針に持ち替えてプロキスを起こしに行く。

 エネルギーの奔流が終わった後、しんりゅうは上空でまた瞑想を始めたようだ。

「休んでる暇はない。続けて攻撃をっ」

「はい」

 アルスは、王者の剣で再び巨大な竜巻を呼んだ。

「プロキス」

「おう」

 戦士と、武闘家は、手を合わせて精神を集中し始めた。

「戦士の右手からベギラゴン……」

「武闘家の左手からバギクロス……」

「「閃光竜巻……ベギナロス!!」」

 ふたりの手から、合体呪文が放たれる。

(戦士に武闘家に……賢者の呪文……本当に3人がいるみたいだ。

 アルスは、懐かしい仲間の面影を思い出した。


     


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