しんりゅうは傷だらけになって、上空から静かに舞い降りた。

「ボロボロだわ」

「もうひと息か?」

「いや」

 真剣な顔のアルス。

「表面上だけだ。ダメージなんてほとんどない」

 しんりゅうは荒く鼻息をついている。

「そんな」

 

 荒れ狂う冷気と炎を吐き出すドラゴン。

 強力な攻撃の中、なんとか耐えていられるのは、小さな青いホイミスライムのおかげだった。

 彼はただひたすらにベホマラーを唱え続けていた。しかし……

 

 くるりん

 ホイミンの体はただ回っただけで、魔法は発動しなかった。

「ホイミン……」

「マジックパワーが、尽きたの?」

 心配そうに振り返るふたり。

「祈りの指輪は?」

 ホイミンの足元には、砕け散った青いカケラが。

 もう魔法力はとっくに尽きていて、指輪に頼りながら、もちこたえていたのだ。それももう……

 

 魔法力の尽きたホイミスライムは、ふらふらと前線に進み出た。

「一体何を……」

 顔を上げて見守るアルス。

「一撃でも受け止めるつもりなんだわ」

「え!?」

「もうお役にはたてないから、せめて壁になるつもりなんです」

「そんな……」

「アルス様! 隙を狙ってください」

前線でプロキスが叫ぶ。

 

 アルスは長い間一緒だった神官様を思い出した。

 真面目で、優しくて、明るくて、物知りで、ちょっとスケベな、最後に自分達のためにメガンテを唱えて砕け散ったタルキン様……

 

 ホイミンに、しんりゅうの尾っぽの一撃が飛ぶ。

 気付くとアルスは飛び出して、ホイミンをその胸に、体でその一撃を受け止めていた。

「いいんだ。こんなことしなくても。これは僕の戦いなんだから……」

 ホイミンはその丸い瞳でアルスを見上げていた。

「君は後方からマホトラを。しんりゅうに効かなければ、僕らからでも」

 リーダーの命令に、素直に従うホイミン。

 

 

 神の竜は、おおきく息を吸い込むと、凍てつく冷気をパーティに放ってきた。

 絶対零度の吹雪にカタク凍りつくパーティ。


     


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