下の部屋に落ちたアルス。
暗い部屋が突然明るくなって、眩しさと共に、大量の魔物のうなり声が5感に飛び込んできた。
ア「モンスターハウスか。」
なんとか、見えるようになった時には、もう魔物に取り囲まれていた。
報告のあった魔物に、ガメゴンロードにおどる宝石、ふたの開いた人食い箱までいる。
アルスは王者の剣を振りかざした。
ゼ「何十匹もの、モンスターに囲まれて、一ターンもつものなど存在しはしない。」
テ「アンタ世界を救った勇者の顔を知らないの?」
ゼ「勇者?・・・ロトの?」
テ「そうよ。異魔神を倒した、ア・ル・ス。」
ゼ「アイツが?・・・どこかでみたことがあるとは思ったが・・・」
テ「何ターンで終わるかしらね。」
ゼ「ふん。しかし、狭い部屋で、マホトーンからも逃れられない。
マホカンタがかかっているものもいる。
ザキの嵐に耐えられるものなどいないし、
甘い息や、麻痺でも即全滅だ。」
テ「そんなに・・・?」
ゼ「まてよ、リレミトか・・・
旅慣れた冒険者なら、まず逃げることを考えるはずだ・・・」
テ「アルス・・・」
部屋の中では、王者の剣の竜巻に耐えたモンスターとアルスの騒乱が巻き起こっていた。
ライオンヘッドのマホトーンがアルスの呪文をふさぐ。
地獄の騎士と、トロルがアルスの相手をしながら、麻痺や甘い息、ルカナン、メダパニの補助呪文が飛んでくる。
一分もすると、前衛のモンスターが力尽きた。
マホトーンもかかっていないのに、アルスは呪文を唱える様子もない。
ガメゴンロードがいるから、使えないんだろうと思ったモンスターは、ガメゴンロードを中列にかばいながら、炎と吹雪と呪文をぶつけていく。
フロストギズモの群れに王者の剣が唸りをあげる。
アルスの命で火竜の力が巻き起こり、部屋中を紅蓮の炎に包む。
(炎まで呼べるのか・・・)
人食い箱の影に隠れていた踊る宝石は思った。
(アイツ・・・勇者の・・・何体がかりでも倒せば俺たちの名が上がる。
厄介なのはあの剣だが、竜巻も炎も効かないモンスターも多い。
少しずつでも削っていけばなんとかなるはずだ。)
不敵に笑いながら勝利の算段を数え始める。
(しかし、マホトーンもかかってないのに、回復呪文も使わないし、
アイツがアルスなら、マホステを使わないのはどう考えてもおかしい。
ガメゴンがいなくなったら、大呪文でも使う気か?)
冷静に考えている間もアルスは休みなく戦いつづける。
アルスはモンスターの戦略などおかまいなしに、目の前の敵を一体ずつ仕留めていった。
次々倒される仲間にじびれをきらして踊る宝石が声をあげる。
「ザキだ。死の呪文を浴びせかけろ。」
その声で、ホロゴーストが得意の死の呪文を唱え続ける。
アルスは戦いながら目の端で、この集団のボスを確認した。
死の言葉がアルスにまとわりつく。
しかしアルスが倒れる様子はない。
(なぜだ・・・装飾品か?)
アルスは懐に手を入れると赤い宝石を取り出した。
(命の石か・・・消耗品だ。)
ホロゴーストのザキがアルスの命の石を砕く。
(しかし、一体いくつ持ってやがったんだ?
・・・あといくつあるんだ?)
いつかは倒れことを疑わず死の呪文をつづけさせる。
アルスは・・・
命の石をひとつしか持っていなかった。
命の石がアルスを守っているのではなく、アルス自身の力によって、命の石が守られていたのだ。
アルスの体はもう死の呪文をうけつけるレベルではなくなっていた。
(最後のホロゴーストが倒されると、踊る宝石は控えていた人食い箱数体を突撃させる。
呪文が効かないなら、痛恨の一撃だ。
なんにんもの高レベル冒険者を葬ってきたお決まりコースだ。)
アルスの体に噛み付いた人食い箱が、次の瞬間には粉々に飛び散る。
肝心のダメージも、ほとんどないようだ。
淡々と最後の魔物達を片付けて、残った踊る宝石を捕まえる。
「なぜだ?呪文を使えばもっと楽に戦えたはずだ。
王者の剣も・・・
それに、俺(首領)がわかったなら、俺を狙うのが鉄則だろう。」
アルスはモンスターの問いに答えず息の根を止めると、以前と同じ悲しい目をして呪文を唱えた。
「リレミト。」