石造りのダンジョンを抜けるとそこは水の流れる音がどこからか聞こえる洞窟だった。
プ「ノア二ールの洞窟だ。」
テ「知ってるとこ?」
シ「はい。私達の隠れ里からそんなに遠いところじゃなかったから、
何回かはいったことがありました。たしか回復の泉が・・・」
指差した水路の向こうには石の柱とぼんやりと輝く光が。
ア「ちょうど良かった。休んでいこう。」
「はい。」
コンコンと湧き出る泉の水で顔を洗うプロキス。
手ですくって喉を潤すシフォンとティーエ。
外した自分のロトの装備を黙って見つめるアルス。
プ「アルス様はどうしてそんなに強いんですか?」
ア「え・・・」
考えるアルス。
心配そうなティーエ。
ア「・・・修行して・・・戦って・・・勝利をつかみながら敗北を味わって・・・そしてまた修行して戦って・・・それを繰り返してただけだよ。」
テ「・・・」
プ「そうかあ・・・」
シ「なにかわかったの?」
プ「やっぱり努力の積み重ねと命がけの実戦の繰り返しなんだなあって・・・」
シ「そうね。それと血の力ね。」
テ「血?」
シ「そう。初代剣王のフルカス、初代拳王のフォン。
そしてロトの勇者様・・・
ご先祖さまが積み重ねた力を受け継いだものがあるからこそ、ひとは強く生きてけるのよ。
別に勇者様や聖戦士に限ったことじゃなくて普通のひとでもね。」
テ「へえー。妖精でもそうかなあ?」
シ「もちろんですよ。」
ホイミンもなにかを聞きたそうな表情。
シ「もちろんあなたもね・・・」
黄色い触手を握りしめる
嬉しそうに回るホイミン。
プ「でもやっぱりロトの血は特別なのかな・・・
なんていうのかな・・・
神の戦いの遺伝子・・・っていうのかな・・・うまくいえないけどそんな・・・」
ア「僕は神様じゃないよ。」
シ「あっプロキスはそんなつもりじゃなくてアルス様の強さにあこがれてるっていうか・・・」
ア「僕は・・・」
テ「アルス・・・」
ア「異魔神を倒して、平和になったはずの世界なのに、平和な暮らし方を知らないひとひとに憤りを感じていたんだ・・・
そんな苛立ちを・・・他人にはあたれないから・・・勇者だから・・・
・・・モンスターにぶつけては何体もの血しぶきと断末魔の中で気を紛らわせていたんだ。」
シ「アルス様・・・」
ア「魔王のいなくなった今。
モンスターは絶対に邪悪であるわけではないことも知っていたのに、それでも・・・」
「・・・」
ア「・・・僕は最低のロトの子孫さ。」
視線を隠すアルス。
次の言葉がだせない若いふたり。
・・・アルスはやっぱりあれからずっと苦しんでいたんだ。
わかっていたのになにもできなかったわたし・・・
静寂の中ふわふわと宙に浮かぶホイミスライムがアルスに近づいて得意のホイミをかける。
まるで元気づけるように。
シ「ホイミン・・・」
笑顔のモンスターを見て胸のつかえがとれるティーエ。
テ「今のアルスは全部が間違ってるわけじゃないと思う。
本当に道を踏み外してるひとにはモンスターはなつかないもの。」
空中に浮かぶホイミスライムをみる。
テ「ロトの子孫だけど、アルスも人間なんだから、
時には失敗したり間違えてもいいんじゃないかな。
憤ることがあったら他人にはあたれなくても仲間にはぶつけたり・・・
アルスは誰にでも優しいんだから、完璧じゃない自分も許してあげようよ。」
シ「そうですよ。」
うなづいて言うプロキス。
プ「さすが寿命の永い妖精さんだけあって良いこというなあ。」
「ピキッ」
シ「ちょっとアンタはいいところで余計なことを・・・」
プ「え?俺はそんな年齢がどうとか悪い意味じゃなくて・・・」
「ピキッ」
シ「いいから失言を認めるのよ。」
プ「やだよ。」
雲行きのあやしくなった中で、ホイミンが懸命にベホイミを唱える。
テ「ま、まあちょっとは賑やかなパーティーになったんだから、楽しくやっていきましょうよ。
アルス。」
アルスに語りかけるティーエ。
仲間の妖精を見つめる勇者。